石鎚黒茶を知る上で伝承されてきた現場を理解することが大切であるということから、長年にわたって石鎚黒茶を作り続けてこられた曽我部正喜氏の旧邸を年に数回、許可を得てVisee職員が訪問させていただくとともに、山道の手入れや下草刈りなども行っています。
今回は、発酵研究者の方々とともに訪問させていただきました。旧邸のあるところは、西日本最高峰石鎚山の標高600mに位置する西条市小松町石鎚地区の急峻な山合いの集落で、そこに住んでおられた多くの方々が離村された後も、10年近く前まで曽我部さんだけが残り、石鎚黒茶を作りながら生活されていました。旧邸を訪れるには、車で西条市氷見から、カーブの多い山道を登り、黒瀬ダム湖のほとりを経由して小松町石鎚の諏訪神社に駐車させていただき(約60分)、ここから徒歩で山道に入ります。急な坂や石段をいくつも超えると谷川(小さな沢)に着きます。健脚の方であれば、徒歩で約20分、普通に歩くと30分かかります。谷風が心地よい所でしばらく休憩してから、再び急な山道を青息吐息で20分登ります。途中、一昔前までは段々畑であったという石垣群には杉が植林され、木の幹はもう直径30㎝くらいは有にあろうかという大木が林立しています。そんな段々畑が、数多く見渡せます。しばらく進むと、いくつかのお宅が見えてきます。途中、四角形の塔のように石垣を積み上げて作られた「野灯(やとう)さん」という石灯籠があります。野灯さんは、地域の住民が1年交代でお正月やお盆などの特別な日にお灯明をあげていたそうです。「ここらにはいっぱいお茶が植わっていて、藩政時代には、相当量の石鎚黒茶が出回っていた」※ そうです。そして、急な石段を登ると、南向きで日当たりが良い藁ぶき屋根の曽我部正喜氏の旧邸が、今もなお、当時の様子を伝えています。縁側に腰を下ろすと、一陣の涼風が登山の疲れを癒してくれました。
今回は、7月の暑い日差しに耐えながらの視察でしたが、石鎚黒茶の研究者の方々とともに、製造場所や環境、そしてその息遣いを体感し、改めて、伝統的製法でつくられる石鎚黒茶の奥深さに触れることができました。 ※参考文献 「千足山物語」渡辺裕二氏